SEEDS #4
ECONOMY
「白馬高校・白馬インターナショナルスクール」
サーキュラーエコノミーワークショップ
2023.03.15
青空のキャンバスに山々の白い稜線がくっきりと描かれた朝、白馬村は春の訪れを感じる暖かさに満ちていました。この日、役場に併設された多目的ホールに集まったのは⽩⾺⾼校の1、2年⽣約90人と、⽩⾺インターナショナルスクールの生徒18人の総勢100名を超える生徒たち。サーキュラーエコノミーについて理解し、イノアックの素材を活用してアイデアを考えるワークショップが開催されました。
2019年9月20日、不安定な積雪など気候変動の影響を身近で感じていた白馬高校の生徒たちが声を挙げ、美しい自然を守るための具体的なアクションを求めて「グローバル気候マーチ」を行いました。村民の声を受けた白馬村は、2019年12月4日に「気候非常事態宣言」を宣言。さらに、直面する気候変動問題に対して、サーキュラーエコノミーの考えを取り入れたビジョン「HAKUBA CIRCULAR VISION」を掲げました。
今回のワークショップでは、このサーキュラーエコノミーの考え方を知り、実際にサーキュラーエコノミー実装に向けたプロジェクトに対して、生徒自らがやりたいと思えるような主体的な意欲を引き出すことを目的としています。
まず、サーキュラーエコノミーの概念について講義を受けました。「循環型経済」と直訳できるこの考え方は、原料調達の段階から再利用していくことを前提とし、従来廃棄されていた物も原料として再活用することで、できるだけ新たな資源を投入することなく循環させていくシステムです。
第二次世界大戦後、経済成長により人々の暮らしは豊かになりましたが、経済を優先し過ぎるあまりに環境と社会とのバランスが崩れ、地球が抱える様々な問題の大きな要因になっています。だからといって、環境のことだけを考えた極端な暮らしではなく、経済成長しながら環境や社会とのバランスも整えるという暮らし方により、関わる人々のウェルビーイング(持続的な幸せ)を実現することこそ、サーキュラーエコノミーが目指す世界です。
講義の後半はサーキュラーエコノミー先進都市であるアムステルダムの事例も紹介されました。アムステルダムの企業がサーキュラーエコノミーを進める上で大切にしているポイントの一つが、伝わる見せ方をすること。「環境にいい」というところだけでコミュニケーションを取っていくのではなく、楽しみながら使えるという体験のデザインや、オシャレだから使いたいと思えるものをデザインすることです。サーキュラーデザインのジーンズをつくり、販売ではなく「レンタル」というビジネスモデルを展開する「MUD JEANS」も、デザイン的にかっこいい商品をまず作り、デザイン性とサーキュラー性を両立させていることがポイントになっています。
もう一つのポイントが、今あるものに価値を追加すること。オランダの三大銀行の一つであるABN AMROが建てた複合施設「CIRCL」は、銀行を利用するという従来の目的だけではなく、アップサイクル品を集めたセレクトショップや手話カフェなど他の目的も増やすことでこの場所に来る人も増やしています。さらに、市民の人々がサーキュラーエコノミーについて学べる空間をつくることで、銀行と市民の関わりが深まり、より良いビジネスが生まれることに繋がっています。この「価値の多重化」というポイントは、アムステルダムが進めるサーキュラーエコノミーにおいて、大きなキーワードです。
そして最後に、ユニークで重要なポイントが「Learning by Doing」という「まずはやってみる」精神です。サーキュラーエコノミーという考え方はまだまだ新しく、決まった正解があるわけではありません。だからこそ、その実現のためにやりながら学んでいく、やりながら磨いていく姿勢が何よりも大切だということを学びました。
その後、生徒たちがサーキュラーエコノミーのアイデアについて話し合うグループワークを開始。「循環型素材でつくられた制服のレンタル」や「学校所有の教科書としてレンタル、もしくは教科書のデジタル化」、「ランドセルなどの革製品を古銭入れに」といった学生にとって身近なテーマから考えられた案は、特に多くのグループから発表されました。さらに、「プラスチックを一つ使うごとに植樹」、「レシートをなくしてスマホに記録」、「宅配時に手渡しで受け取ったダンボールをその場で業者に返す」、「廃棄食品でバイオマス燃料を生成」など日々の暮らしで感じた問題点からの解決案なども発表されました。なかには、「スキー場の1日リフト券を帰る際に回収し、リフトを使用した分だけ支払うシステム」や「ソーラーパネルの服でつくった電気でスマホを充電」などユニークなアイデアも発表され、生徒たちが考えて発想することを楽しんでいる様子が伝わってきました。
次に、イノアックが開発している製品や素材の特性についてクイズ形式の講義を受けました。イノアックのメイン事業はウレタンフォーム、ゴム、樹脂などの素材開発や製品を製造する事業です。バージン材料をもとに製品をつくる際に生まれた端材を再原料化したペレットや、人工芝の基材や横断歩道にも使われているゴムの粉砕品に実際に触ることで、素材の色や質感を感じることができました。また、ウレタンフォームの機能は多種多様で、キッチンスポンジや耳栓、座椅子といった身近なところから、吸音タイヤやバクテリアの住処として汚水を濾過する機能など、様々な用途に使用できる万能な素材であることが分かりました。
その後、サーキュラーエコノミーの視点からウレタン素材を活かした新しい製品や仕組みなどについてグループワークで意見を出し合いました。ウレタン素材の特性について熱心に質問する生徒や、アイデアのタネを探そうと周りの子に意見を求める生徒。新たなアイデアに辿り着こうと、各自が自分なりにアクションを起こす様子が散見され、会場の雰囲気が熱を帯びていくのを感じました。
「HAKUBA CIRCULAR VISION」を掲げ、サーキュラーエコノミーへの移行を進める白馬村。その白馬村の大自然の中で暮らし、学びを深める二校の生徒たち。両校の生徒が顔を突き合わせ、同じ目的に向かって考えながら話し合った経験が、未来へ向けてポジティブな変化を起こすきっかけになることを願っています。 さらにこれからイノアックが始めたいことの一つが、マットレスのサブスクリプション型サービスです。白馬村にあるいくつかの宿泊施設から、古くなったマットレスの処分が大変であり、環境負荷も大きいという話を聞かせていただきました。そこで、イノアックからマットレスを借りていただき、使わなくなったら返していただく。そしてまた新しいマットレスを借りていただくというサービスを計画しています。まずは900を超える白馬村の宿泊施設に対してそれぞれどのようなご要望があるか、聞き取り調査をしていきたいと考え、地域に貢献したいという意志を持つ学生の皆さんとプロジェクトチームを結成して一緒に活動できればと思っています。学生をはじめとする地域の皆さまの力をお借りしながらではありますが、今後もイノアックは白馬村のビジョンに寄り添い、より良い未来に繋げる活動を続けていきます。
イノアックが白馬村で実際に行ったアクションをテーマごとにご紹介。
未来のタネをぜひご覧ください。